顔面神経麻痺



【顔面神経麻痺診療ガイドライン2023年】




日本顔面神経学会から顔面神経麻痺診療ガイドラインが2023年に発刊され、顔面神経麻痺の治療法として新たに鍼治療が推奨になりました。

顔面神経麻痺の正しい知識をもっていない医療機関がまだまだ多く顔面神経麻痺の後遺症である病的共同運動を促進する電気刺激療法を行っている鍼灸院もあります。

こころ鍼灸サロンでは正しい顔面神経麻痺の知識をもちいかに患者さんの後遺症を減らせるか、後遺症が残ってしまった場合の正しい治療法、リハビリテーションの指導など先を見据えた指導を行っていきます。

【鍼灸が顔面神経麻痺にもたらす効果について】

顔面神経麻痺は醜貌をきたすため患者さんに大きな精神的な負担や社会生活への影響を与えます。


鍼灸の効果としては、表情筋の血行改善や神経の回復促進、後遺症を認める場合は拘縮軽減を目的として治療を行っています。また、顔面神経麻痺に伴う首肩こり・頭痛の治療も行っていきます。

顔面の拘縮、こわばり感は薬物治療では軽減が得られにくいですが治療に鍼灸を取り入れることにより顔面の運動機能の向上、こわばり感、痛み、疲労感の軽減など有意に改善されていきます。

また、発症から回復期の間に【病的共同運動】を起こさないために正しいセルフケア・マッサージ・生活動作の説明を細かく指導していきます。

【病的共同運動とは?】

「口を動かしたときに目が閉じてしまう」「目を動かしたときに口角が上がる」などの症状で意図しない表情筋が一緒に動いてしまう現象のことをいいます。後遺症のうち高頻度で不快な症状です。病的共同運動は顔面神経が回復するときに、別の表情筋に顔面神経が侵入して発症するといわれています。

顔面神経麻痺を発病した初期は顔面の動かしにくさが患者さんのQOLを下げますが、徐々に回復していくとともに後遺症として病的共同運動、拘縮などが顔面の感覚障害を起こし患者さんのQOL(生活の質)を低下させていきます。

後遺症を認める慢性期では鍼灸治療による随意運動の回復以外に顔面のこわばり感や鈍痛、顔面の疲労感が軽減されるとFaCE Scale の評価によるQOLが向上されることが報告されています。

【顔面神経麻痺の種類】


・ラムゼイハント症候群

小児期の水痘罹患時に水痘帯状疱疹ウイルスが膝神経節に潜在感染しており、免疫力低下に伴い水痘帯状疱疹ウイルスが再活性されラムゼイハント症候群が出現する。
耳介の帯状疱疹、末梢神経性顔面麻痺、めまい、難聴、耳鳴りなどの第Ⅷ脳神経障害を主症状としている。

症状の出方には3種類あり

①耳介帯状疱疹のみ
②耳介帯状疱疹+顔面神経麻痺
③耳介帯状疱疹+顔面神経麻痺+難聴やめまい

さらに耳介帯状疱疹の症状はなく顔面神経麻痺のみが現れることもあります。

一般的にBell麻痺より麻痺の程度が重度であることが多い。


・Bell麻痺

Bell麻痺の多くは単純ヘルペスウイルスⅠ型の膝神経節における再活性化が原因になります。小児期の口唇炎などによって単純ヘルペスウイルスⅠ型が膝神経節に潜伏感染しており、抵抗力が低下したときに再活性され膝神経節部における神経炎が起きます。

・外傷性麻痺

障害部位は頭蓋内、側頭骨内、側頭骨外の麻痺が存在しますが側頭骨内外外傷が最も多く、側頭骨の強い振動のみでも顔面神経の損傷は起こるものの頻度は低く麻痺も軽症のことが多い。側頭骨内外傷の多くは側頭骨骨折に伴うものが多い。


・耳性

慢性中耳炎または真珠腫で迷路骨の破壊が進行して顔面神経麻痺が生じることがある。


【顔面神経麻痺の原因と頻度】

・Bell麻痺 58%
・ラムゼイハント症候群 18%
・外傷性麻痺 6%
・耳性 4%
・その他 19%


【顔面神経麻痺の症状別の後遺症が出やすい時期】
 

顔面神経麻痺後遺症の発現時期は

病的共同運動(口を動かしたときにまぶたも動く)は発症後4~12カ月

顔面拘縮(お顔の筋肉のこわばりやつっぱり感)は発症後6~10カ月

発症してから時期別に出やすい後遺症は異なってきます。
 



【発症から時系列別の治療の流れ】

・発症してから3ヶ月までは、まずは病院またはクリニックでステロイド治療・抗ウイルス薬投与の治療を行っていただきながら、それにプラスして星状神経節のレーザー照射を行います。星状神経節照射療法による交感神経ブロック効果は血管拡張作用により虚血の改善、浮腫の消退、抗炎症効果をもたらすことで神経障害を最小限に抑え、再生を促進できる効果が期待できます。







【顔面神経麻痺の治療】

・急性期の治療のながれ(発症〜2ヶ月まで)

①星状神経節のレーザー照射
②顔面神経麻痺にともなう首・肩こりの鍼治療
③上眼瞼挙筋の運動指導(目だけを大きくあける)と筋伸長マッサージの指導
④病的共同運動(後遺症)を残さないための日常生活指導




①星状神経節にレーザーをあてていきます

顔面神経麻痺の病変部の血管を拡張し、虚血を改善します。
変性の進行を抑えて再生を促進させる効果があります。
ステロイドと同様に早期にからの実施が効果的です。

レーザーと名前がついていますが熱い・痛い刺激ではなくほんのりとあたたかいくらいの刺激しかありません。

Hunt症候群はBell麻痺に比べて治癒する時間が長引きやすいですが発症から3日以内にレーザーをあてた場合は予後が良好になりやすいです。

末梢性顔面神経麻痺は炎症による痛みを伴うことがありますがレーザーはその痛みの緩和効果も期待でき、Hunt症候群では帯状疱疹後神経痛にも効果的です。

顔面神経麻痺の急性期に使われるステロイドが使えない糖尿病患者さんや妊婦さんにもレーザー治療は適応になります。



下の画像は星状神経節にレーザーをあてたときの顔面の血流の変化です。




②顔面神経麻痺に伴う首・肩こりの鍼治療

顔面神経麻痺によってお顔の筋肉がうまく動かなくなってしまい、それにともなって首・肩こりも現れやすくなっていきます。少しでも不快な症状を除くため初期の段階も首・肩こりの治療をさせていただきます。




③自宅での上瞼瞼挙筋を用いた開眼運動(目だけを大きくあける動作)と筋伸長マッサージの指導

拘縮・循環不全の予防として弛緩性麻痺の時期から表情筋の筋伸長マッサージを自宅でも行えるように指導させていただきます。お顔の筋肉をイラストをみていただき理解をしていただいたうえで一緒に鏡をみながらマッサージのやり方を教えていきます。

眼輪筋のストレッチを目的に上眼瞼挙筋を用いた開眼運動(目だけを大きくあける運動)の指導もコツをお伝えしながら一緒に鏡をみながら行っていきます。




④病的共同運動(後遺症)を残さないための日常生活指導

日常生活で気をつけたいこと、してはいけない動作などを教えていきます。
お家で簡単にできる血行不良の改善方法、病的共同運動を防ぐためのやってはいけない動作の指導、食事をとるときの水分との交互嚥下や食後のうがいの指導も行っていきます。
指導を行った内容はご自宅に帰ったあとも忘れないようにラミネートして患者さんにお渡しさせていただきます。洗面所でご自身で伸長マッサージを行うとき、リビングで食事をとるとき忘れないように目に触れるところに置いて活用いただけますとよいかと思います。



・回復期の治療のながれ(発症から3ヶ月〜12ヶ月)

①星状神経節のレーザー照射
②顔面神経麻痺にともなう首・肩こりの治療
③お顔の拘縮改善のための筋伸長マッサージ
④お顔の鍼治療
⑤上眼瞼挙筋の開眼運動(目だけを大きくあける運動)の指導、筋伸長マッサージの指導、バイオフィードバック療法の指導


①星状神経節にレーザーをあてていきます

お顔周りの血流をよくするため鍼治療をする前に星状神経節にレーザーをあてていきます。



②顔面神経麻痺にともなう首・肩こりの治療

顔面神経麻痺によってお顔の筋肉がうまく動かなくなってしまい、それにともなって首・肩こりも現れやすくなっていきます。少しでも不快な症状を除くため初期の段階も首・肩こりの治療をさせていただきます。



③拘縮を改善するため筋伸長マッサージを行います

顔面の拘縮を予防するためベッドに仰向けになっていただいてマッサージを行います。
目の周り、頬骨あたり、口の周りは病的共同運動が目立ちやすいため念入りに行います。



④お顔に鍼治療を行います

表情筋の血行促進や神経の回復促進、後遺症がある場合は拘縮の軽減の効果があります。
使用する鍼は髪の毛よりも細い鍼を使用し、3〜5ミリほどの深さしか鍼は刺しません。
また、体の不定愁訴(肩こりや頭痛など)の施術も同時に行います。
※顔面部には表情筋を収縮させる低周波治療は行いません。

鍼治療の効果としては以下になります
・表情筋の拘縮、つっぱり感の軽減
・顔面の血流の促進
・頸から肩のこり感、頭痛などの軽減

薬物治療では効果が得られにくいお顔のこわばり、重だるさ、疲労感が軽減します。



④上目瞼挙筋の開眼運動と筋伸長マッサージとバイオフィードバック療法の指導

眼輪筋のストレッチを目的に上眼瞼挙筋を用いた開眼運動(目だけを大きくあける運動)の指導もコツをお伝えしながら一緒に鏡をみながら行っていきます。

拘縮・循環不全の予防として弛緩性麻痺の時期から表情筋の筋伸長マッサージを自宅でも行えるように指導させていただきます。お顔の筋肉をイラストをみていただき理解をしていただいたうえで一緒に鏡をみながらマッサージのやり方を教えていきます。

病的共同運動を抑えるため抑制フィードバックを行っていきます。
一緒に鏡をみながら丁寧に教えていきます。
表情筋を大きく動かすのではなく、個別の表情筋を選択的に動かす(個別的筋力運動)で随意運動の早期回復が得られていきます。
バイオフィードバック療法のやり方もご自宅に帰っても再現できるようにラミネートしてお渡しさせていただきます。




【表情の動きを動画で確認させていただいて前回と比較していきます】

症状の正確な記録のために表情の動きを動画で撮影させていただいて、前回来られたときの表情の動きを比較していきます。治療効果もわかりやすく患者さん自身が症状の変化を確認するためにも重要なことと思っています。撮影させていただいた動画は個人情報保護の観点から厳重に管理いたします。






回復期治療のQ&A

Q.回復期はどのくらいの頻度で通えばいいのでしょうか?

A.柳原法40点法で発症2〜3週間で10点以上であれば予後も比較的良好なためまずは1週間に1回行い、セルフケアの方法を指導しながら徐々に治療間隔を開けていきます。

柳原法で10点以下で予後不良の場合は、伸長マッサージや開眼運動をの指導、日常生活での注意点をお伝えしながら、鈍痛感やつっぱり感の軽減を目的に1週間に1回程度の間隔で治療を行っていきます。

ここでお伝えしている治療の頻度はあくまでも目安のため治療頻度は患者さんにお任せをしています。